
電力市場の仕組みを徹底解説|JEPX・容量市場・需給調整市場まで日本の卸電力取引を網羅
「電力市場の全体像がわからない」「JEPX以外にどんな市場があるのか整理したい」「制度の変化が複雑で追いきれない」——電力の取引制度は年々細かくなっており、全体像を把握するのが難しくなっています。
日本の電力市場は、JEPXだけではありません。電気の「量」を売買する卸電力市場に加えて、将来の発電能力を確保する容量市場、需給のズレを調整する需給調整市場、将来の価格を決めておく電力先物市場が、それぞれ異なる役割を担っています。
この記事では、主な4つの市場の役割と関係、価格の決まり方、企業の電力調達戦略への活かし方までを整理します。
※本記事は2026年10月時点の情報に基づいています。
この記事でわかること
- 電気がもつ3つの価値(量・力・調整力)とは?
- 主な4つの電力市場の役割の違い
- 電力市場の動きが企業の電気代に影響するしくみ
電力市場とは|基本構造の整理
電力市場とは、電気を売買する取引の場の総称です。日本ではJEPX(日本卸電力取引所)が最も有名ですが、実は電力市場はJEPXだけではありません。複数の市場が異なる役割を担って同時に存在する点が、電力市場の最大の特徴です。
電力市場の定義
電力市場とは、電気そのものに加えて、将来の供給力や需給調整に必要な調整力などを取引する市場の総称です。電力自由化の進展により、競争原理の中で価格が決定される市場メカニズムが整備されてきました。
電気は溜めておくことが難しいエネルギーなので、使う量(需要)と作る量(供給)を常にぴったり合わせておく必要があります。この特殊性から、電力市場には他の商品市場にはない独自の仕組みが導入されています。
電力商品の3つの価値(kWh・kW・ΔkW)
電力市場を理解する上で前提となる概念が、電力には3つの異なる価値があるという考え方です。それぞれの価値が、異なる市場で取引されています。
価値 | 意味 | 取引市場 |
kWh(電力量) | 実際に消費される電気の量 | 卸電力市場(JEPX) |
kW(容量) | 将来の発電能力・供給力 | 容量市場(OCCTO) |
ΔkW(調整力) | 需給バランスを保つ調整力 | 需給調整市場 |
3つの価値は、工場の生産ラインに例えると分かりやすくなります。ひとつずつ見ていきましょう。
①kWh価値(電気の「量」)
発電所が実際に作った電気の量そのものの価値です。工場で言えば「1日に生産した製品の総数」にあたります。私たちが毎月支払う電気代の大部分は、この「使った量」に対する支払いです。
②kW価値(最大需要に応える「力」)
夏の昼間など、1年で最も電気が使われる瞬間にも、滞りなく電気を届けられる供給力の価値です。工場で言えば「最も忙しい時間帯でも生産ラインを止めずに対応できる最大生産能力」にあたります。この力が不足すると、必要とされる電力量を担保できずに停電につながってしまうこともあります。
③ΔkW価値(細かい変動に対応する「調整力」)
電気の需要は、天気や時間帯によって常に細かく変動しています。その変動に合わせて供給量を瞬時に微調整し、需要と供給のズレをなくす力がΔkW価値です。工場で言えば「急な注文変更にもすぐスピードを上げ下げして対応するライン」のようなものです。これがうまく機能しないと、電気の品質(周波数)が乱れてしまいます。
つまり電気は、「どれだけ使ったか(kWh)」だけでなく、「いつでも対応できる体制を維持するコスト(kW)」「細かい調整を行うコスト(ΔkW)」も市場で取引されているのです。

電力市場と電力システム改革
日本の電力システムは、東日本大震災を機に大きく見直され、2015年から2020年にかけて段階的に改革が進められました。ここでは、その改革の大きな流れについて押さえておきましょう。
第1段階(2015年4月):電力広域的運営推進機関(OCCTO)の設立
第1段階はOCCTOの設立です。東日本大震災の直後、東日本では深刻な電力不足が起きましたが、地域間を結ぶ送電線(連系線)の容量や、東西で異なる電気の周波数(50/60Hz)を変換する設備が不足していたため、西日本の電気を東日本へ十分に送ることができませんでした。当時の電力会社は地域ごとに独立して運営されており、地域間の連携体制が十分でなかったためです。
そこで、電力を全国規模で調整する機関としてOCCTOが設立されました。役割をひと言で言うと、「日本全国の電気を、地域の壁を越えてうまく回すための調整役」です。緊急時にどの地域からどの地域へ電力を送るか、送電線の使い方をどう調整するかなどを、全国規模で取りまとめています。
第2段階(2016年4月):電気の小売全面自由化
第2段階は電力小売の自由化です。それまで家庭で使う電気は、住んでいる地域の電力会社(東京電力、関西電力など)からしか買うことができませんでした。いわば「地域独占」の状態です。
2016年4月以降、これが大きく変わり、家庭や小さな事業者でも、新しく参入した「新電力」と呼ばれる会社を含めて、自由に電力会社を選ぶことができるようになりました。携帯電話の会社を自分で選ぶのと同じように、電気も選ぶことができるようになったイメージです。これによって、料金プランの多様化やガス・通信とのセット割引など、消費者にとっての選択肢が広がりました。
第3段階(2020年4月):発送電分離
第3段階は大手電力の発送電分離です。電気事業には大きく「発電(電気を作る)」「送配電(電気を届ける)」「小売(電気を売る)」という3つの機能がありますが、これまでは大手電力がこの3つをまとめて担っていました。
問題は、送配電網(電気の通り道)は本来、どの電力会社でも公平に利用できるべき「公共の道路」のような存在であるべきなのに、発電・小売も兼ねる会社がその道路まで持っていると、自社グループに有利な使い方をしてしまう可能性があったことです。
そこで2020年4月、送配電部門を別会社として法的に切り離し、中立的な立場で運営する体制に変更されました。簡単に言うと、「電気の通り道を、特定の電力会社の都合に左右されない公平な存在にする」改革です。これにより、新電力を含むどの会社も公平に送配電網を使える環境の整備が進みました。
日本の電力市場の全体像|主な4つの市場を整理
日本の電力市場は、先に見た3つの電力の価値ごとの市場と、取引タイミングが特徴的な先物市場で構成されています。それぞれの市場の役割を整理しましょう。
市場 | 取引対象 | 運営主体 | 開始時期 |
卸電力市場(JEPX) | 実物電力(kWh) | JEPX | 2003年11月 |
容量市場 | 発電容量(kW) | OCCTO | 2020年7月 |
需給調整市場 | 調整力(ΔkW) | 一般送配電事業者(送配電網の運営会社/2024年4月〜EPRX) | 2021年4月 |
電力先物市場 | 価格指標 | TOCOM・EEX | 2019年9月 |
①卸電力市場(JEPX):電気そのものを売り買いする市場
卸電力市場は、いわば電気の「青果市場」のような場所です。発電事業者が作った電気(kWh価値)を、新電力をはじめとした電力会社がここで買い、家庭や企業に届けています。
この市場を運営しているのが日本卸電力取引所(JEPX)で、2003年に設立されました。電気の卸売りには、発電事業者と小売電気事業者が直接契約を結んで売買する「相対取引」と、取引所を通じて売買する方法があります。その取引所にあたるのがJEPXです。
JEPXのスポット市場は、新電力にとって電気を仕入れる主要な手段の一つになっています。
②容量市場:将来も電気が足りなくならないようにする市場
容量市場は、今すぐ使う電気ではなく、4年後の「電気を作る力(kW価値)」を確保するための市場です。大型の発電所は1〜2年で簡単に建設できるものではないため、4年先を見据えて「その時に必要な発電能力」をあらかじめ確保しておく仕組みです。
運営しているのは電力広域的運営推進機関(OCCTO)。2020年7月に最初の取引(オークション)が行われ、4年後の2024年度から実際にこの仕組みが使われ始めました。発電所を維持するための費用を支える役割もあり、「電気が足りなくなる事態を防ぐための保険」のような役割を持つ市場です。
③需給調整市場:電気の細かいズレをその場で直す市場
電気の使用量は、天気や時間帯によって常に細かく変動しています。需給調整市場は、その細かいズレ(ΔkW価値)を瞬時に直すための「調整力」を取引する市場です。
2021年4月に開設され、2024年4月からはすべての種類の調整力がこの市場で取引されるようになりました。ただし制度が出そろった後も、必要な量に対して売り手の応札が不足するという課題が続いており、まだ発展途上の市場でもあります。
④電力先物市場:将来の電力価格変動に備える市場
電力先物市場は、将来の電力価格の変動リスクを抑えるために活用される市場です。先物取引を利用することで、市場価格が上昇した場合の調達コストへの影響を軽減できます。
2019年9月に東京商品取引所(TOCOM)で試験的に始まり、2022年4月に本上場しました。2020年5月にはヨーロッパの取引所であるEEXも日本市場に参入し、現在はTOCOMとEEXという2つの取引所で電力の先物が取引されています。
卸電力市場(JEPX)の6つの市場
ここからは、それぞれの市場をより詳細に説明します。最初に詳しく見ていくのが、電力市場の中核である卸電力市場(JEPX)です。JEPXは1つの市場ではなく、目的の異なる6つの市場で構成されています。
JEPXの概要
JEPXは2003年11月に設立され、2005年4月から取引が開始されました。取引会員は年々増加しており、2026年10月時点で375社が登録されています。これに加えて、沖縄電力を除く一般送配電事業者9社が特別取引会員として参加しています。一般送配電事業者は、東京電力パワーグリッドなどがこれにあたります。
参考:日本卸電力取引所『2025年度 事業報告書』/『取引会員情報』
市場名 | 対象 | 約定方式 |
①スポット市場 | 翌日電力 | ブラインド・シングルプライスオークション方式 |
②時間前市場 | 実需給(受渡時点)1時間前まで | ザラ場方式 |
③先渡市場 | 1週間〜3年先 | ザラ場方式 |
④ベースロード市場 | 年間電力 | シングルプライスオークション方式 |
⑤非化石価値取引市場 | 環境価値 | マルチプライス/シングルプライスオークション方式 |
⑥間接送電権市場 | エリア間価格差 | シングルプライスオークション方式 |
①スポット市場(一日前市場・翌日市場とも呼ばれます)
スポット市場は、JEPXの取引の中心となる市場であり、翌日に受け渡しする電力を取引する市場です。1日24時間を30分単位で48コマに区切り、各コマごとに取引が行われます。
入札締切は毎日10時で、その後システムが需給曲線の交点を計算し、約定価格が決定される仕組みです。市場価格といえば、一般的にこのスポット市場の約定価格を指します。
スポット市場を含む卸電力取引所全体の取引量は、国内の販売電力量の3〜4割程度で推移しています。
参考:電力・ガス取引監視等委員会『電力・ガス取引の状況のモニタリング』
※取引所取引が販売電力量に占める割合は年度・期によって変動します(2022年度40.1%、2023年度33.4%、2024年10〜12月期35.3%)。
②時間前市場(当日市場)
時間前市場は、スポット市場の取引後に発生する需給ミスマッチを調整するための市場です。実需給(実際に電気を受け渡す時点)の1時間前まで取引が可能で、当日の急な発電トラブルや需要変動に対応します。
約定方式はザラ場方式が採用されており、売り入札と買い入札の条件が合致した時点で取引が成立します。
③先渡市場
先渡市場は、将来の一定期間に受け渡しされる電力を取引する市場です。週間商品・月間商品・年間商品があり、年間商品では受渡開始年の3年前から取引が可能になっています。
将来の電力価格を先に固定することで、市場価格変動リスクをヘッジする目的で設けられた市場です。ただし取引実績は減少が続き、2024年度・2025年度はいずれも取引量がゼロとなりました。JEPXは東京商品取引所と連携した代替手段「JJ-Link」(後述)を整備したうえで、先渡取引の廃止に向けた検討を続けています。
参考:日本卸電力取引所『取引ガイド』/『2025年度 事業報告書』
④ベースロード市場(2019年7月開設)
ベースロード市場は、石炭火力・原子力・一般水力・地熱など、一般的に低コストで安定的に稼働できるとされる「ベースロード電源」の電力を取引する市場です。2019年7月に開設されました。
大手電力や電源開発(J-POWER)が自社のベースロード電源の一定量を供出する仕組みで、新電力が安定的にベース電源を調達できる環境を整える目的があります。取引機会は原則として年4回設定されています。
なお2026年度の第1回については、卸取引における排出量取引制度の取扱いに関する議論を踏まえ、2026年8月21日に中止が公表されています。
参考:日本卸電力取引所『2026年度 ベースロード取引スケジュール』/『お知らせ』
⑤非化石価値取引市場(2018年5月開設)
非化石価値取引市場は、CO₂を排出しない方法で発電された電気の「環境価値」を証書として売買する市場です。2018年5月に開設されました。
制度開始当初は単一の市場として運営されていましたが、2021年11月に大きな制度変更がありました。需要家の再エネ価値調達のための「再エネ価値取引市場」と、小売電気事業者がエネルギー供給構造高度化法(高度化法)の義務を果たすための「高度化法義務達成市場」の2市場に分けられています。
【非化石価値取引市場の2市場分割(2021年11月〜)】
・再エネ価値取引市場:FIT非化石証書(固定価格買取制度の対象電源に由来)を取引。需要家も参加可能。マルチプライスオークション方式
・高度化法義務達成市場:非FIT非化石証書(制度の対象外の電源に由来)を取引。小売電気事業者のみ参加。シングルプライスオークション方式
・背景:エネルギー供給構造高度化法により、年間販売電力量5億kWh以上の小売電気事業者は2030年度に非化石電源比率44%以上を達成する義務がある参考:資源エネルギー庁『高度化法義務達成市場について』
⑥間接送電権市場(2019年4月開設)
間接送電権市場は、送電線の混雑によりエリアごとに約定価格が異なる場合に、その価格差によるリスクをヘッジするために設けられた市場です。地域間連系線をまたいで電力を取引する際に発生するエリア間価格差の影響を抑える役割を担っています。

容量市場の仕組み
続いて、電気の容量(kW価値)を取引する容量市場の仕組みを解説します。容量市場は、JEPXとは異なる時間軸で運営される市場であり、電力システムの安定性を支える重要な役割を担っています。
容量市場とは
容量市場とは、将来の電力供給力(容量)を取引する市場です。電力広域的運営推進機関(OCCTO)が運営しており、4年先の電力供給力を確保することが目的です。
具体的には、発電事業者が「将来〇〇kWの発電能力を提供する」という供給力を約束し、その対価として容量確保契約金額を受け取る仕組みです。発電事業者にとっては、発電所の固定費回収を支える収入源の一つとなります。
メインオークションと追加オークション
容量市場では、メインオークションと追加オークションの2種類のオークションが実施されます。
・メインオークション:実需給年度の4年前に年1回実施。必要容量の大部分を確保する
・追加オークション:需給見通しの変化に応じ、必要に応じて実需給年度の1年前に実施する第1回メインオークションは2020年7月に実施され、対象実需給年度は2024年度でした。約定総容量は1億6,769万kWで、約定価格は全エリア一律14,137円/kWとなっています。
事前に公表された目標調達量は1億7,747万kWですが、これはFIT電源等の期待容量1,179万kWを含んだ数値で、オークションで調達する分(非FIT)と直接比較できるものではありません。約定総容量にFIT電源等の期待容量を加えた調達量は1億7,948万kWとなり、目標調達量を上回りました。
参考:電力広域的運営推進機関『容量市場メインオークション約定結果(対象実需給年度:2024年度)』
発電事業者がオークションで受け取る対価の原資には、小売電気事業者が支払う「容量拠出金」が充てられます。小売電気事業者にとっては電力調達に関わるコストの一つとなるため、料金プランの設計によっては需要家の電気料金にも影響します。
2024年度実需給開始の意義
容量市場が生まれた背景には、小売全面自由化と再生可能エネルギーの導入拡大があります。再エネの発電量が多い時間帯を中心に卸電力市場の価格が下がる傾向にあると、発電事業者は電気の販売収入だけで新設やリプレースのコストを回収できるという見通しを立てにくくなります。
その結果、必要なタイミングで電源投資が行われず、新設・リプレースが進まないまま既存の発電所が閉鎖されていくと、中長期的な供給力不足につながりかねません。
こうした状況に対応するために始まったのが容量市場です。容量市場は、発電所が「いつでも発電できる状態を維持していること」自体に対価を払う仕組みで、固定費をきちんと回収できる道筋を作ることを目的としています。2024年度に実際にこの制度が動き出したことは、安定電源の維持・確保に向けた大きな転換点となりました。
2024年度の約定価格は全エリア一律14,137円/kWでした。ただし、2010年度末までに建設された一定の電源などには経過措置が設けられており、対象電源には42%の控除が適用され、単価は8,199円/kWとなりました。
古い電源の単価が低く設定されているのは、すでに建設費の多くを回収済みであるという考え方に基づくものです。
参考:電力広域的運営推進機関『容量市場メインオークション募集要綱(対象実需給年度:2024年度)』
容量拠出金の負担
先に触れた通り、容量市場の維持には、小売電気事業者が「容量拠出金」を負担する仕組みになっています。2024年度が初めての実需給年度で、2024年4月分から課金が始まりました。ただし請求書の発行は3か月後にあたるため、4月分の実際の請求は7月に行われています。
初回メインオークションの約定結果公表時点では、経過措置控除後の約定総額は1兆5,987億円でした。その後、市場退出などを反映して容量確保契約金額は変動しています。
一般送配電事業者・配電事業者の負担額は、エリアの約定価格と需要に一定の割合(2024年度は6%、2025年度以降は8%)を掛けて算定されます。容量拠出金の総額からこの負担分と経過措置による控除分を差し引いた残りを、小売電気事業者が負担します。
実際に需要家へどの程度転嫁されるかは、小売電気事業者の料金設計によって異なります。
参考:電力広域的運営推進機関『容量拠出金を知ろう!』
需給調整市場の仕組み
3つ目の電力市場が、需給バランス調整に必要な調整力(ΔkW価値)を取引する需給調整市場です。電力の安定供給を支える縁の下の力持ちのような存在です。
需給調整市場とは
需給調整市場は、電力の需要と供給のズレに対応するために必要な「調整力」を取引する市場です。一般送配電事業者が電力の需給バランスを維持するために必要な調整力を調達する役割を担っています。
2021年4月1日に開設され、沖縄電力の供給区域を除く全国を対象としています。
開設当初は一般送配電事業者9社が共同でシステムを運用していましたが、2024年4月1日からは、この9社が設立した一般社団法人 電力需給調整力取引所(EPRX)が市場を運営しています。
なぜこうした細かい調整が必要なのでしょうか。理由はいくつかあります。まず、発電所は事前に「この時間にこれだけ発電する」という計画を立てていますが、実際の発電量とはどうしても多少のズレが生じます。また、太陽光発電などの再生可能エネルギーは、天気予報が外れた分だけ発電量も予測とズレてしまいます。さらに、電気の需要そのものも、30分という単位よりもっと短い時間の中で、常に細かく変動しています。
こうした小さなズレをそのままにしておくと、電気の周波数が乱れ、最悪の場合は大規模な停電につながりかねません。そこで、これらのズレを瞬時に埋め合わせる「調整力」を、特定の地域に限らず全国規模で、市場を通じて効率よく確保する仕組みが、需給調整市場です。
参考:電力需給調整力取引所『需給調整市場とは』
5つの調整力商品
需給調整市場では、応動時間と継続時間に応じて5つの調整力商品が取り扱われています。
応動時間とは、調整の指令を受けてから、求められた出力の変化を実現するまでの時間です。
継続時間とは、その変えた状態をどれくらいの時間キープできるかを指します。5つの商品は、対応するズレの種類やスピードによって、この2つの条件が異なります。
・一次調整力(応動時間10秒以内・継続時間5分以上)
電気の流れにごく短い瞬間に生じる揺らぎや、発電所が突然停止した際の急な変化に対応する、最も速い反応が求められる商品
・二次調整力①(応動時間5分以内・継続時間30分)
数分単位で起こる比較的速い変動や、発電所の停止に対応する
・二次調整力②(応動時間5分以内・継続時間30分)
電力の取引が締め切られた後に発生する、やや長めの周期の予測誤差に対応する
・三次調整力①(応動時間15分以内・継続時間30分)
需要の予測がズレた場合や、発電所が予期せず止まった場合の差を埋める
・三次調整力②(応動時間60分以内・継続時間30分)
太陽光発電など再生可能エネルギーの、天気予報のズレによる発電量の誤差に対応する、比較的ゆっくりとした調整力つまり、瞬間的な揺らぎには素早く反応できる電源(蓄電池など)が、ゆるやかな予測誤差には火力発電のような電源が向いているというように、ズレのスピードに合わせて電源の「得意分野」で役割分担されているのが、この5商品の仕組みです。
なお、商品要件は制度開始以降に見直されています。三次調整力②は2025年3月14日受渡分から応動時間が45分以内から60分以内へ、継続時間が3時間から30分へ変更されました。残る4商品も2026年3月14日受渡分から週間取引が前日取引に移行し、取引単位が3時間ブロックから30分コマへ変わっています。
参考:電力需給調整力取引所『需給調整市場の商品要件と取引スケジュール(第6版)』
段階的導入の歴史
需給調整市場は、すべての商品が一度に取引開始されたわけではありません。システム改修や運用面の準備のため、段階的に商品が導入されてきました。
1. 2021年4月:三次調整力② 取引開始
2. 2022年4月:三次調整力① 取引開始
3. 2024年4月:一次調整力・二次調整力①・二次調整力② 取引開始(全商品開場)2024年4月の全商品開場により、需給調整市場の全体像が完成しました。この年が電力業界で「需給調整市場元年」と呼ばれることもあります。
課題:応札不足と高騰
需給調整市場の本格運用には課題もあります。2024年4月にすべての商品の取引が始まりましたが、その直後から「売り手(発電事業者など)が出してくる量が、必要とされる量に届かない」という事態が、広い範囲の商品で発生しました。簡単に言うと、「買いたい量に対して、売ってくれる人が足りない」状態が続いたということです。
特に、前日に取引される商品では、必要な量に届かないことで価格が跳ね上がり、調達費用が大きく膨らみました。三次調整力②の調達費用は2024年4月に9エリア合計で月100億円を超えましたが、募集量を圧縮する仕組みの導入などにより、2025年2月には9.74億円まで低下しています。ただしこれは三次調整力②に限った数字で、市場で調達する量を抑えて市場外の電源で補った面もあります。
調整力の調達費用は、託送料金(送配電網の利用料金)の収入上限の算定に関係する費用の一つであり、将来的な託送料金の上昇要因となる可能性があります。
2026年3月には全商品が前日取引に移行しましたが、その後も一次調整力を中心に不足が残っており、資源エネルギー庁も、状況が大きく改善したとは言い難いとの見方を示しています。上限価格の引き下げを含め、市場を改善するための議論が現在も続けられています。
参考:資源エネルギー庁『需給調整市場について(2026年5月13日)』
電力先物市場の仕組み
4つ目の電力市場は、電力価格変動のリスクヘッジツールである電力先物市場です。電気そのものを取引するのではなく、将来の電力価格を取引対象とする金融的な市場である点が特徴です。
電力先物市場とは
電力先物市場では、JEPXスポット市場の価格を参照する先物商品が取引されています。将来の一定期間の価格を事前に決めておくことで、市場価格が上昇・下落した場合の影響を抑える手段として活用されます。
決済時には、先物価格と実際の市場価格との差額を精算することで、電力調達価格の変動リスクを抑えることができます。
これは保険のような役割に近く、特に新電力など電気を仕入れて販売する事業者にとっては、毎月の電力調達コストを安定させるための重要な手段になっています。
TOCOMとEEXの2大取引所
日本の電力先物市場は、性格の異なる2つの取引所で構成されています。
【電力先物市場の2大プラットフォーム】
・TOCOM(東京商品取引所):2019年9月17日に試験上場、2022年4月に本上場。呼値(注文の価格)の掲示による板取引が特徴で、常に売買の注文を出して取引を支えるマーケットメイク制度を導入している
・EEX(欧州エネルギー取引所):2020年5月に日本市場へ参入。当初はブローカー経由の相対取引を清算する形態が中心だったが、2025年4月に板取引を導入し、現在は両方式を併用している取引できる期間も取引所によって異なります。TOCOMは月間物が24限月(限月は決済の月のことで、2年先まで)、週間物が5限月で、2025年5月に上場した年度物を含めると最長でおよそ3年先までカバーします。EEXでは最長6年度先までの取引が可能です。
電力先物の取引量は拡大が続いていますが、先物の取引量が現物を大きく上回る欧州の成熟市場と比べると、日本の電力先物市場はまだ発展の途上にあります。
参考:経済産業省『電力先物の活性化について』
JJ-Link(JEPXとTOCOMの連携サービス)
電力先物市場のさらなる活性化に向けて、JEPXとTOCOMの連携サービス「JJ-Link」が段階的に提供されています。
電力先物はTOCOM、電力現物はJEPXで取引されているため、小売電気事業者はそれぞれの市場に別々に注文を出す必要がありました。JJ-Linkは、この手間を減らし、先物と現物の結び付きをはっきりさせることで、取引価格の透明性を高め、先物取引の流動性を向上させることを狙った仕組みです。
2024年10月28日に始まったフェーズ1では、TOCOMがJEPXから現物の約定データの連携を受け、先物ポジションと照合して確認結果を返すサービスが提供されました。
続く2026年8月31日には、フェーズ2にあたる「先物市場活用型先渡サービス」が始まり、先物ポジション保有者の申告に基づいて相当量が自動的にJEPXのスポット市場へ入札されます(他の注文と同様に扱われるため、必ず約定するとは限りません)。
なお、これは発注手続きを一本化するものであり、JEPXとTOCOMの市場そのものを統合するものではありません。
参考:日本取引所グループ『JJ-Linkのフェーズ2提供開始について』/経済産業省『JEPXスポット取引とTOCOM先物取引の連携サービスについて』
価格決定の仕組み|3つの約定方式
電力市場では、価格がどう決まるかも重要です。市場ごとに異なる約定方式が採用されています。
シングルプライスオークション方式
シングルプライスオークション方式は、スポット市場で採用されています。
売り手は「〇円/kWh以上なら、〇〇kWh売る」、買い手は「〇円/kWh以下なら、〇〇kWh買う」という入札情報をシステムに入力します。入札時は他社の状況が見えない「ブラインド」状態でオークションが行われる点が特徴で、ブラインド・シングルプライスオークション方式とも呼ばれます。
締切後、すべての売り入札を低い価格順に並べた供給曲線と、買い入札を高い価格順に並べた需要曲線の交点が約定価格として決定されます。重要なのは、入札価格に関わらず、約定した参加者全員がこの約定価格(シングルプライス)で取引するという点です。
ザラ場方式
ザラ場方式は、時間前市場・先渡市場で採用されている価格決定方式です。
売り手と買い手の価格条件が合致すると取引が成立し、約定価格は合致した売買入札のうち先に出されていた入札価格となります。
マルチプライスオークション方式
マルチプライスオークション方式は、再エネ価値取引市場で採用されています。売り手が価格を提示せずに出品し、買い手が希望価格を示すことで、需要と供給に応じて各社の入札価格で約定する仕組みです。同じ取引でも参加者によって落札価格が異なる点が特徴です。

電力市場と企業の電力戦略
ここまで、電力市場の種類や価格の決まり方について見てきました。ここからは、企業の電力調達戦略と電力市場がどう結び付いているのかを整理します。
電力市場の動きは、いくつかの経路を通って企業の電気料金につながります。小売電気事業者はスポット市場や相対契約、先物取引などを組み合わせて電気を調達しており、その調達コストが料金の原価になります。市場価格が上がれば調達コストも上がり、下がればその分が下がります。
ただし、請求額にどう反映されるかは契約している料金プランによって決まります。市場価格の変動がそのまま反映されるプランもあれば、燃料費調整額など一部の項目だけが動くプランもあります。容量市場の容量拠出金のように、市場で決まったコストが小売電気事業者を経由して料金に乗る項目もあります。
小売電気事業者の電力調達ポートフォリオ
小売電気事業者は、複数の電源を組み合わせて電力を調達しています。主な調達手段は次の3つです。
1. 自社発電所からの調達(自社電源)
2. 発電事業者との相対契約による調達
3. JEPXスポット市場からの調達一般に、自社電源や長期の相対契約、先物取引など複数の調達手段を組み合わせることで、特定の市場への依存度や価格変動の影響を抑えることができます。
市場連動型プランと固定型プラン
電力市場の価格は、燃料価格や需給バランス、気象条件などによって大きく変動することがあります。小売電気事業者は、先物取引や相対契約、自社電源などを組み合わせて調達価格の変動を抑えています。
需要家にとっても、契約している料金プランが市場価格の影響をどの程度受けるのかを確認することが重要です。料金の決まり方や契約内容の確認ポイントは、電気料金見直しガイドにもまとめています。
・市場連動型プラン:電力量料金の単価などがJEPXの市場価格に連動して変動するプラン。市場価格が低い局面ではメリットを受けられる一方、価格が上昇した場合には電気料金も高くなる可能性があります。
・固定型プラン:電力量料金など主要な料金単価を一定期間固定するプラン。料金の見通しを立てやすい一方、燃料費調整額など一部の項目が変動する契約もあります。料金プランは、市場連動型か固定型かのどちらか一方を選ぶ形だけではありません。デジタルグリッドプラットフォーム(DGP)では、市場からの調達と発電事業者との直接契約を組み合わせる「ハイブリッド調達」により、料金の一部を固定しながら、市場価格が下がったときのメリットも取り込む形で設計できます。
電源の種類や再エネ比率も組み合わせて指定できるため、価格変動リスクをどこまで抑えるかを自社の方針に合わせて決めることができます。自社の電気料金が市場価格の影響をどの程度受けているのかを確認したい場合は、お気軽にご相談ください。
電力市場と脱炭素経営
電力市場は、企業の脱炭素経営とも密接に関わっています。環境価値を取引する市場として設けられているのが、非化石価値取引市場です。
非化石価値取引市場の重要性
非化石価値取引市場では、化石燃料を使わない電源が持つ「非化石価値」を証書として取引します。非化石電源には太陽光・風力・水力などの再生可能エネルギーだけでなく、原子力なども含まれます。
脱炭素や再エネ調達を目的とする場合には、再エネ由来であることやトラッキング情報など、利用する制度・イニシアティブの要件を確認する必要があります。
2021年11月の制度変更により、需要家(企業)も再エネ価値取引市場に直接参加できるようになりました。このうち直接参加の対象となるのは、JEPXの非化石価値取引会員の要件を満たす企業です。要件を満たさない場合も、仲介事業者を通じて購入する方法があります。
PPAモデルと電力市場
近年、急速に普及しているPPA(Power Purchase Agreement)モデルも、電力市場と密接に関わっています。
PPAにはいくつかの分類方法があります。発電設備の設置場所で分けると、需要家の敷地内に設備を設置する「オンサイトPPA」と、遠隔地の発電所を利用する「オフサイトPPA」があります。
また、オフサイトPPAには、再エネ電力を小売電気事業者などを介して供給するフィジカルPPAや、電力そのものではなく市場価格との差額や環境価値を取引するバーチャルPPAなどがあります。
脱炭素経営における市場活用
脱炭素経営を進める企業にとって、電力市場の仕組みを理解することは戦略的に重要です。
1. 再エネ電力プランの選択:自由化の活用
2. 非化石証書の戦略的調達:環境価値の確保
3. PPAモデルの導入:長期契約による再エネ電力の調達
4. 自家消費型太陽光発電:市場依存度の低減複数の選択肢を組み合わせることで、電力コストの最適化と脱炭素経営の両立を目指すことができます。
電力市場に関するよくある質問
Q. 個人で電力市場の取引に参加できますか?
JEPXの電力取引は取引会員を対象としており、一般の個人が自由に売買できる市場ではありません。容量市場や需給調整市場にもそれぞれ参加要件が設けられています。また、TOCOMの電力先物取引は法人を対象としており、個人は参加できません。
Q. 容量市場とJEPXの違いは何ですか?
取引対象が異なります。JEPXは「電力量(kWh)」を取引する市場で、翌日や当日に受け渡す電力を売買します。
一方、容量市場は「容量(kW)」つまり将来の発電能力を取引する市場で、4年先の電力供給力を確保することが目的です。両者は補完関係にあり、別々に運営されています。
Q. 需給調整市場の調整力高騰は電気料金に影響しますか?
一般送配電事業者の調整力調達費用は、レベニューキャップ制度(託送料金の上限を定める制度)における託送料金の収入上限の算定に関係する費用の一つです。そのため、調達費用の増加が将来的な託送料金の上昇要因となる可能性があります。
Q. 電力先物市場は誰が利用していますか?
主な利用者は、小売電気事業者・発電事業者・商社・金融機関・大口需要家などの法人です。電力価格変動リスクをヘッジしたい事業者が中心です。
まとめ|電力市場の理解で賢いエネルギー戦略を
日本の電力市場について、ポイントを整理します。
1. 電力市場は1つの市場ではなく、kWh(卸電力市場)・kW(容量市場)・ΔkW(需給調整市場)の3つの価値ごとに市場が存在する
2. JEPXは2003年設立の卸電力市場で、2026年10月時点の取引会員は375社。卸電力取引所の取引量は販売電力量の3〜4割程度
3. JEPXには6つの市場(スポット・時間前・先渡・ベースロード・非化石価値・間接送電権)があり、それぞれ異なる役割を担う
4. 容量市場は2020年に第1回オークション、2024年度から実需給開始。安定電源の固定費回収を支援する
5. 需給調整市場は2021年4月開設、2024年4月に全商品の取引を開始。2024年4月からはEPRXが運営している
6. 電力先物市場はTOCOMが2022年4月に本上場。JJ-Linkは2026年8月にフェーズ2が始まり、先物取引と連携したJEPXスポット市場への入札手続きが簡素化された
7. 非化石価値取引市場は2021年11月に再エネ価値取引市場と高度化法義務達成市場に分割された電力市場の仕組みを理解することは、電力業界に関わる方だけでなく、企業の電力調達担当者・脱炭素経営担当者の方にとっても重要です。複数の市場が補完し合って電力の安定供給と効率的な運用を実現している構造を押さえることで、自社の電力戦略の選択肢が広がります。
特に2024年は容量市場の実需給開始・需給調整市場の全商品開場という大きな転換点を迎え、日本の電力市場は新しいステージに入りました。脱炭素経営の選択肢としても、電力市場の仕組みを賢く活用することが、これからのエネルギー戦略に求められる視点といえます。
ここまで見てきたように、電力市場の動きは法人の電気料金にも影響します。電力契約を見直す際は、料金単価だけでなく、燃料費調整額や市場価格の影響、契約条件までを含めて比較することが重要です。
デジタルグリッドでは、企業ごとの電力使用状況に合わせて、電気料金の見直しや電力調達のご支援をしています。電気料金の基本構造や契約内容の確認ポイントをまとめた資料を無料で公開していますので、まずは自社の契約を整理するところから始めたい方はご活用ください。
この記事の著者

デジタルグリッド編集部
日本初の民間企業による電力取引市場「Digital Grid Platform」の運営
デジタルグリッドのメンバーが執筆・監修しています。電力に関する基礎知識や再エネに関するコンテンツをみなさまにお届けしています。ご不明点などがあればお気軽にご相談ください。